「抽象絵画」の創始者の一人として知られるワシリー・カンディンスキー(1866〜1944)。「インプロビゼーション」や「インプレッション」「コンポジション」シリーズなどで抽象表現を探求し続け、外界と内的なイメージが響き合う未開の芸術領域を切り拓いてきた。そんなカンディンスキーの国内作品が集結する「カンディンスキー 世界は鳴りひびく ―日本のコレクションでたどる画業と反響―」が、宇都宮美術館にて7月19日(日)〜9月3日(木)まで開催される。
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ロマンティシズムあふれる、多次元的なカンディンスキーの世界

初期に描かれたテンペラ画も目にすることができる
カンディンスキーは1866年にロシア・モスクワに生まれ、主にドイツやフランスなどの異国で活動した。しかし、ロシアという広大な地で得た寓話的、幻想的なイメージ、幼い頃に母方の祖母や叔母からドイツの伝統的童話を読み聞かせてもらった経験は、彼のイマジネーションの着想源となり続けた。1896年にドイツ・ミュンヘンへ移り住み、当初はテンペラを用いた彩色ドローイングや、自然光のもとで描く風景画などを主に発表していたが、次第に抽象絵画の道へと進んでいく。1912年にフランツ・マルクと共に『青騎士』を創刊し、新しいドイツ表現主義の芸術活動を開始したり、1922年からバウハウスにてパウル・クレーと共に教鞭を取ったりと、同時代の画家と影響を与え合いながら自らの芸術を確立していった。
カンディンスキーが生きた時代は、第一次世界大戦、ロシア革命などが勃発し、芸術家が自由な創造を続けることが容易ではなかった。祖国を離れ、時代に翻弄されつつも独自の芸術を貫き続けた巨匠の歩みは、現代を生きる人々に深い示唆をもたらすだろう。


抽象絵画において感性の直接話法を探求してきたと言えるカンディンスキーは、事物の外面を描写するのでなく、世界への感応、心の震えを映し出す絵画を発表してきた。中でも結びつきの深い領域は音楽だ。カンディンスキーはチェロとピアノを嗜んだ。また、リヒャルト・ワーグナーやアルノルト・シェーンベルクなどの音楽に感銘を受け、その衝撃を視覚的に表した。色を聴くように、あるいは音を視るように、世界と自身を交感させ、その響きを描き出す。そうした彼の芸術活動は、一つの感受性がメディアの種別を超え、あるいは統合して多次元的な表現を見せる現代の先駆けであったと言える。


抽象絵画が単なるまやかしでないことを明らかにするため、カンディンスキーは明晰な理論を展開した。その思想は著書『抽象芸術論―芸術における精神的なもの』『点と線から面へ』などで読み解くことができる。とはいえ、こうした理知に回収しきれないロマンティシズムがあふれている点も、カンディンスキーの作品が人々を魅了してやまない所以だろう。


カンディンスキーと日本。互いに与えた影響

カンディンスキーはまた、東洋や日本の芸術にも目を向け、多くの示唆を得ており、水墨画や草書など東洋の美学にも通じる側面も見られる。日本においても、1910年代から作家や美学者たちはカンディンスキーの作品や芸術理論を取り入れようとする動きが起こった。本展では、当時の日本においてカンディンスキーの作品、思想がどのように受け止められてきたのか、最新研究をふまえて紹介される。



「絵画にできること」を拡張してきたカンディンスキー。その美術史上の重要性から、日本で数多くの美術館が作品を収蔵している。これらの収蔵作品が集結し、日本との関わりにも目を向けつつ、初期から晩年までの画業をたどる本展。開催される宇都宮美術館は、広大な緑が広がる「うつのみや文化の森」の中に位置する。自然の中で感覚を解放し、カンディンスキーの作品が放つ響きを受け取る時間は格別な体験となるだろう。画家自ら「童話のような」「新しいロマンティシズム」と呼んだ作品群。華やぎに満ち、晴朗な響きを放つカンディンスキーの世界へ、足を向けてはいかがだろう。


展覧会情報
| 「カンディンスキー 世界は鳴りひびく ―日本のコレクションでたどる画業と反響―」 会期: 2026年7月19日(日)〜2026年9月3日(木) 会場:宇都宮美術館(320-0004 栃木県宇都宮市長岡町1077) 時間:9:30~17:00 (最終入館時間 16:30) 休館日:月曜日(7月20日は開館)、7月21日[火] 公式Webサイト: https://u-moa.jp/ |
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