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広大な土地を抜ける車道。両脇には陽光を受けた水田が鏡のように光る。道の先には霊峰・大雪山が連なり、白い冠雪が輝く最高峰・旭岳が遠くに見える。壮大な景色が広がる北海道東川町は、旭川空港から車で約20分の位置にある。大自然を望む東川町は「写真の町」というキャッチコピーを持つ。そんな地に2026年2月、日本最北のミニシアター「LE CINEMA QUATRE(ル・シネマ・キャトル)」がオープンした。
「LE CINEMA QUATRE」を運営するのは、東京、札幌居住を経て東川町に移住した齋藤裕樹さん、富士子さんご夫妻。同じ敷地内にある飲食店「中国茶とおかゆ 奥泉」を営業する傍ら「LE CINEMA QUATRE」も営んでいる。コアな映画ファンの方なら、一度はミニシアター開設を夢見たこともあるのでは。近年は老舗のミニシアターの閉館が続く一方で、個人がマイクロ・ミニシアターをオープンする動きが各地で見られる。「LE CINEMA QUATRE」オープンに至るまで、齋藤夫妻はどんな道のりを歩んできたのか。話を伺いたいと、初夏の東川町を訪ねた。

(楡 美砂)

北海道東川町

感謝の声が続々。写真の町・東川町にオープンした「ル・シネマ・キャトル」

「LE CINEMA QUATRE」

豊かな緑に囲まれた一角に、そのミニシアターはある。青い屋根、赤い扉が目を引く、北欧の森に建つ一軒家のような温もりある外観だ。映画館の前には水路が流れ、せせらぎが聞こえる。

スクリーンは一つ。1日2本の映画が上映される。上映30分前になると、少しずつ車が入ってくる。若い女性が中国茶をオーダーし、広々とした座席に腰をかけて上映を待つ。中年の男性が最近観た映画について裕樹さんと談笑している。

「ご来場いただきありがとうございます。アニエス・ヴァルダ監督による1965年のフランス映画『幸福』を上映します。人の幸せについて描かれた作品です」
裕樹さんがスクリーンの前で挨拶し、上映が始まる。

上映前に挨拶をする齋藤裕樹さん

「LE CINEMA QUATRE」オープン後は、利用者から連日感謝の言葉を寄せられたという。
「すごく感謝されます。『映画館をつくってくれてありがとう』って。応援していただける方が多くて。『とにかく続けてください』って皆さん言ってくださいます」(富士子さん)

地域の人々の口コミ、メディアの報道も後押しし、広報も順調だ。
「来てくれた方が宣伝してくれるんですよ。上映スケジュールをいっぱい持って行かれて『配ってくるから』って」(裕樹さん)

「お店を経営している方は、自分のお店に置いとくよって言ってくださる方もいて」(富士子さん)

「皆さん協力的なのは、芸術に興味がある方が多いからだと思います。映画は総合芸術なんで。フランスで『第七芸術』と言われますが、全てのアートが集まっている。その中で音楽だったり、建築だったり、関心を持つ分野につながっていくので、興味を持ってくださる方が多いんだと感じますね」(裕樹さん)

「写真の町」東川町は、写真家や、アート系の仕事をする方が多く住んでいる。人口約8,700人のうち移住者が半数以上を占め、個性的な飲食店、セレクトショップ、宿も数多く見られる。旭川空港が近いため、東京と二拠点生活をしている人も多い。北海道全体では人口減少傾向にあるが、東川町は人口が上昇している数少ない町だ。

齋藤裕樹さん、富士子さん

新潟から上京。映画に目覚め、フランスへ留学

裕樹さんは高校を卒業後、新潟から上京。映画に関心を抱くようになったきっかけは、1995年から2000年代半ばまで高円寺にあったアートスペース「岡画郎」に出入りするようになってから。建築家でダンサーの岡啓輔氏が主宰となり、ワンルームの室内で作品展示やパフォーマンスなど実験的な表現活動が行われていた。そこに集う人々と交流する中でアート系の映画を観るようになり、その面白さに目覚めていく。映画監督を志し、日本の大学で映画を学びたいと勉強していたが、次第にフランス留学を考え始める。

1998年にフランスに渡る。語学学校に通いながら映画学校を目指し、映画館に通う日々を送った。
「パリは映画の三大都市の一つ。日本では観られない多種多様な映画が上映されていました。フランスが植民地を広げていた時代の名残もあり、当時はアフリカ映画なども観られたんですよね。シネマテークも多くて、一カ月間かけて鈴木清順や今村昌平の作品が上映されていたり。若い頃って自分の国の価値が実感しづらいところがあると思うんですが、パリでその素晴らしさをあらためて感じられました。

映画文化も、日本と違う印象を受けましたね。映画を芸術としてとらえた時、日本だとどうしても商業的な割合が大きいと感じていて。そういう観点ではフランスは芸術的な側面が強かったです。多様性がありましたね。人種のバックグラウンドもそうですし、普段スポットライトが当てられない人に着目した作品が多かったです。今は日本でも一般的になってきましたが、フランスでは当時からLGBTQに焦点を当てた作品も多かった。人が皆違っていること、他人を理解しようという姿勢。勉強になりましたね」

フランスで吸収した知見や語学力をいかして、裕樹さんは次第に作品を創る側から、広げる側の仕事に携わっていく。帰国後は配給会社で働き、ヒット作品『フラガール』の宣伝を担当したり、映画祭の運営に関わったりしながら、映画業界での経験を積んでいく。

映画と中国茶の協奏。東京生活に疲れ、札幌へ移住

フランスに足掛け5年ほど滞在した裕樹さん。その間、日本に一時帰国しては滞在資金を蓄える生活を送っていた。フランス人が多く利用する神楽坂のホテルで勤めていた時、妻の富士子さんと出会う。ミニシアター系の映画を観るのが好きだったという富士子さん。裕樹さんがシナリオを書いて制作した映像作品に、富士子さんが出演したこともあったそうだ。

富士子さんは「中国茶とおかゆ 奥泉」で、訪れる人に本場の中国茶を提供している。中国政府認定の評茶員・茶藝師、日本の中国茶インストラクターの称号を持つほどの腕前だ。

「コーヒーやお茶を淹れる行為がすごく好きで。もともとコーヒーを勉強していたんですが、美味しいお茶に出会ってしまって。中国茶を美味しく入れたいなと思っていろいろ調べ始めたら、どんどん沼に(笑)武夷岩茶(ぶいがんちゃ)という、中国福建省にある世界遺産の武夷山で取れるお茶があるんです。このお茶がすごく好きで。中目黒にある中国茶専門店の『岩茶房』さんへずっと通っていたら誘いを受けて、働けることになって」

そうした縁もあり、「中国茶とおかゆ 奥泉」では中国茶喫茶店の老舗「岩茶房」(東京・中目黒)限定で扱う中国茶を特別に卸してもらっているという。
二人の関心が向かう映画と中国茶。現在に続く情熱の原型、芸術的協奏はすでに生まれていた。札幌への移住を決めたのはどのような背景があったのだろうか。

「富良野に友人がいて、何度か北海道に遊びに来ていたんです。二人とも東京の生活に疲れていて、『北海道に住めたらいいね』みたいな話をしていました。彼女が中国茶のイントラクターなんで、『二人でお店をやりたいね』となって。北海道は寒い地域だからお茶が合うんじゃないかと。
中国茶とお粥というニッチなジャンルを扱うお店なので、初めから田舎町でオープンしてお客さまに来てもらえるかというと難しいだろうなと。札幌だと人口が約200万人いますし、『まずはここで始めてみよう』となりました。おかげさまで、東川町へ移住した後も札幌からお客さまがたくさん来ていただいています」(裕樹さん)

富士子さんは埼玉出身。実家へ戻ることは考えなかったのか聞くと、「暑いのが苦手で。もう『関東で暮らせない』となって」と振り返る。
そうして2016年に二人は札幌に居を移し、「中国茶とおかゆ 奥泉」をオープンした。4年ほど札幌の暮らしを続ける中で、二度目の移住を検討し始める。

「札幌で暮らしていると、思ったより朝食文化がないことに気づきました。お茶をゆっくり飲む文化があんまりなくて。コーヒーショップはたくさんあるんですけど、お茶屋さんは減っていて。結構せっかちな方が多い印象もあって、なかなかフィットしなかったんです。『東京とそんなに変わらないね』って。緑はありましたが、窓から見える景色も目の前は建物が多くて」(富士子さん)

清らかな水、米どころの東川町へ。ミニシアター立ち上げ前夜

「中国茶とおかゆ 奥泉」

自然豊かな環境を好み、東京にいた時も中央線沿いの公園が近いエリアに住んでいたという二人。自然をより身近に感じられる暮らしを望んでいた。東川町に移住した決め手は何だったのだろうか。

「中国茶とお粥がメインなので、水が大切なんです。うちの中国茶に合う水を探して北海道の各地を巡っていました。その中で東川町の水が一番合っていたんです。米どころでもあるし、ここにしようって。武夷岩茶は 武夷山のミネラル分を吸って飲まれるお茶です。旭岳の地中を流れる水もミネラル成分が豊富で、武夷岩茶と相性がすごく良かったんですね。ニセコ方面の羊蹄山など各地を巡ってお茶を淹れて飲み比べもした結果、ここが一番良かったので。しかも、東川町は水道代が1円もかからないんです。旭岳の清らかな地下水が流れてきて、蛇口をひねるとそのまま飲める美味しい水が出てくる。魅力的でした」(裕樹さん)

「中国茶とおかゆ 奥泉」店内
朝7時からオープンしており、登山客も利用する

中国茶を数杯ゆっくりと味わえる

おかゆや餃子、豚まんなどフードも楽しめる

東川町で極上の水に出会い、運良く現在の物件が空いたタイミングで2019年に東川町の地に移住し、二人は新たなスタートを切る。当時は映画館の立ち上げを考えていなかったが、映画への情熱は変わらず裕樹さんの胸にあった。

「映画はいつも観ていましたし、映画の情報も取っていましたけど、その時点ではまだ自分が何かをやるとは全然考えていませんでした。きっかけは、国の施策で地方のDX化で古民家を改修すると補助金が出るというものがあり、そこから『映画館を開設すればいいんじゃない』という話が生まれて。その話は頓挫するんですが、『もし映画館をオープンするなら』って、いろいろ頭の中で設計するうちに『上映会をやってみようかな』という気持ちになりました。それで、うちのお店や友人のレンガ倉庫などで10回ほど上映会を開催したんですよね。それがとても好評で。すごく遠くからも来場してくれて、満員になる回もありました。

都会に住んでらっしゃる方には考えづらいことだと思うんですけど、この辺りでは、いわゆるミニシアター系の映画を観られないんで、皆さん札幌まで往復6時間かけて観に行くんですよ。ここは『日本最北のミニシアター』と言われていますが、約200km離れた北見市からお越しいただくこともあり、いわゆる文化格差は距離的にも存在するんですね。そんな文化格差を実感して、自分たちもここで良い映画を観たかったですし、『だったらやってみよう』という気持ちが芽生えました」

「上映会で上映したのは、ヴィム・ヴェンダースの『パリ、テキサス』やアキ・カウリスマキの『枯れ葉』、それからベルギーの女性監督シャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』などを上映しました。
『ジャンヌ・ディエルマン(以下略)』は、3時間20分に及ぶ長編なんですが、1回限りの上映が満席になっちゃって、追加上映したくらい反響があったんです。ほとんど動きがない作品で、ジャガイモの皮を剥いたり、靴を磨いたり、日常の風景が描かれる中でだんだん違う方向へ向かうという。イギリスの映画雑誌『Sight & Sound』で 10年に1度発表される映画のオールタイムベストがあって、そこで全映画の中で1位になった作品です。お客さまが入ってくれるかわかりませんでしたが、自分も観たかったですし、上映を決めました」

当初から作家性の強い作品を上映していたのは、作品選定における裕樹さんのポリシーがある。
「こういう言い方をすると、ちょっとエゴかもしれないですけど……あらゆる芸術に共通しますが、お客さまに寄せるのか、それとも貫くのかって、葛藤するポイントだと思うんですよね。でもお客さまに寄せて、自分が大して推せない作品を上映して誰も来なかったら、目も当てられない。それだったら、自分が好きな、観たい作品を上映したほうがいいと思ったんです」

心配は杞憂に終わり、上映会を開くと満員になるほど大きな反響が。地方ならではの距離の近さも、観客が作品について言葉を交わし、理解を深める時間を生んだ。
杉並区の選挙に密着したドキュメンタリー『映画 ◯月◯日、区長になる女。』を上映した際は、再開発や政治という実生活に直結するテーマに、来場者の議論が止まらなかったという。

「上映後もお客さまの話が尽きないことが結構あります。皆さんずっとお話しされてて。私たちにも話しかけてくれるんですけど、それが派生して知らない人同士も作品について語らい始めて」(富士子さん)

「オープンせずには死ねない」ミニシアター開設までの道のり

オープンに向けて、自分たちで壁のペンキを塗った

上映会で手応えを感じた二人は、それから二年かけて、ミニシアターのオープン準備を進めていく。土地を取得し、映画館に適用される「興行場法」に準じた空間にするため、自宅の半分をリフォームして改築した。トイレの数、電気の明るさ、窓の大きさなど「映画館」の条件を満たすには細かな基準があり、想定以上に予算が割かれた。

「かなり古い家だったんですよね。本当は新しい映画館を建てたかったんですけど、予算に合わせて住宅兼映画館という形に収まりました」(富士子さん)

理想の映画館を具現化するため、裕樹さんは全国約50軒のミニシアターを視察した。都心部のミニシアターは既存のビル内に設けられることが多いため、空調、音響など設備面で制限がかかることが多い。ほぼゼロから立ち上げる「LE CINEMA QUATRE」は自由が利くため、観客視点でネックに感じていたことを解消できる空間を目指した。
例えば、映画にとって重要な音響。一般的に、映画館の空調は両脇の壁に設けられるが、風の音が耳につく場合がある。冬は極寒になる北海道。空調は重要だ。そこで音響担当者に相談し、音の干渉を最大限抑える独自設計を取り入れた。

「上から直接風が当たると、結構音が気になるんですよね。音響担当の方も、映画館の空調が気になってたみたいで。外からは見えないんですが、後方座席の下にエアコンを二つ設置しています。下から空気が流れ、座席下の隙間から温風が出るという床暖房みたいな形です。なので、音も気になりにくい仕様になっています」

木材の温かみが感じられる広々とした座席

観客が映画に没入できるよう、座席にもこだわった。落ち着いたブルーが印象的な座席は、ゆったり20席配置されている。
「一人の席を広く取っているのでゆっくりご覧いただけます。ここは旭川家具の街なので、座席に地元の木材を使用しています。一つずつオーダーメイドで、口に入っても大丈夫な塗料が塗られています。この青い布も探してもらって。全部オリジナルです」(裕樹さん)

「席の高さも、一段一段高くしてもらったんですよ。ぎゅうぎゅうした映画館だと、人の隙間から映画を観なきゃいけない時がありますよね。前の人の頭が気にならないように設計されています」(富士子さん)

一度座ると立てなくなるような、広く座り心地の良い座席。木材の肘置きは温かみがあり、もちろんドリンクスペースも配されている。「おじいちゃんがよく寝てます」と富士子さんは笑う。

座席の段が高く取られ、前の人を気にせず鑑賞できる

準備は着々と進んだが、音響機材や空調設備などが予算内に収まらず、2025年12月にクラウドドファンディングを実施した。地元や道内に留まらず、全国の多くの賛同者から支援を受け、目標金額を達成。オープン日が迫る中、「間に合わないかもしれない」と自分たちも壁にペンキを塗り、文字どおり「手作り」で創り上げた空間だ。
そして2026年2月27日、「LE CINEMA QUATRE」が誕生した。「日本最北のミニシアター」は、地域メディア、全国紙、テレビなどで広く取り上げられた。

長年の想いを形にし、独自性あふれる文化拠点を生み出した二人。平坦な道のりではなかったはずだが、穏やかな語り口はその苦労を感じさせない。「心は決まっていたのですか」と尋ねると、富士子さんは「やらずに死ねないって言ってたよね」と裕樹さんを見る。裕樹さんは笑い、当時の心境を語ってくれた。

「よく看護師さんが仰るんですけど、『皆さん、亡くなる前に、あれやっとけば良かったって全員言う』らしいんですよね。俺、そうならないようにするには映画館をやるしかないなと思ったんです。

不安はそんなにありませんでした。都内でもミニシアターの閉館が続いていますが、映画館の運営って、コストはほぼ家賃と人件費にかかってるんですよね。このミニシアターは、家賃はかからないし、人件費は二人だから」

「ゼロばっかりだと大変ですけど、ある程度お客さまに入っていただいて、それがずっと続けば、大儲けはできなくても生活はちゃんと続けられるだろうって。飲食店の基盤があるので。なんとかなるかなって」(富士子さん)

「応援してくださる方が多かったことが、一番頼もしかった」と二人は振り返る。オープン後も試行錯誤しながら無事に運営を続けている。アイデアは、いつも観客との対話から生まれるという。

上映後に観客と談笑

「関連動画」にカウンター。偶然がもたらす新鮮な喜びを

ミニシアターやアートスペースを訪れた時、そこで出会う作品は素晴らしくても、サービス、接客面で少し残念な気持ちになったことがある人もいるのではないだろうか。個人的には、少なからず経験がある。
「LE CINEMA QUATRE」には、長年二人が培ってきたホスピタリティが随所に現れている。裕樹さんは以前、品川にあった原美術館で働いていた経験があり、当時に培った「場を届ける」という姿勢を大切にしている。

「原美術館で働いていた時、『原美術館ファン』がいたんですよね。『あそこに行けば快適に過ごせる』みたいな。そういう、展示を観る目的じゃなくて、映画館という場に来てもらいたかったんで。空間を居心地よく整えることを重視しています」(裕樹さん)

定員を20名とした点も、十分なサービスを行き届かせるためだ。
裕樹さんは「30、40席にしたところで、二人で運営しているので、サービス面が劣ってしまう。20名が、二人で対応しきれるちょうどいいバランスでした」と話す。
収支のバランスは重要だが、「お客様が快適に過ごせるには」という根底に立ち返ると、自ずと選択肢は絞られていった。

10年以上続く飲食店の経験も、映画館の独自性につながった。
「映画館内でうちの豚まんや中国茶を飲めるんですよね。茶菓子やパイナップルケーキとか。ポップコーンやコーラが悪いわけじゃないですが、ここでしか食べられないものを召し上がっていただいて、豊かになってもらえたらなと」(裕樹さん)

「私の中ではお茶も芸術なので。ここで映画と一緒に味わって、芸術つながりで楽しんでもらいたいなって思ってます」(富士子さん)

中国茶や豚まん、パンフレット、オリジナルグッズなども販売されている

手作りの茶菓子

「LE CINEMA QUATRE」のキャッチコピーには「旅に映画 くらしに映画」とあり、偶然から生まれる映画との出会いを提案する場所になっている。旅行で東川町に訪れた人が映画館に立ち寄るケースも多い。この地を訪れたある映画プロデューサーは、「東京だと映画館は他のアミューズメントと競わなきゃいけないけれど、ここは他とあまり競合しない健康的なモデル」と語ったそうだ。周辺では旭岳や、美瑛町の青い池など、自然を目的に訪れる人が多いが、天候が荒れると滞在できる場所が限られてしまう。映画館だと長時間有意義に過ごせるため、観光協会にも喜ばれているという。

「旅先で映画を観ると、自分の中に特別な記憶として残ることがあります。映画の見方も、印象も変わってくることがあって、僕はそれがいいなと思っています」(裕樹さん)

「作品を選ばないで観るのって新鮮ですよね。そこに行って、その日、その時間しかないから、その作品を観ようっていう。目当ての作品を観るのと違って、たまたま観て、こんないい映画があったんだと発見があったり」(富士子さん)

「今は皆さんYouTubeを見て、その関連動画で自分の好みのものしか見ないってことが起きてると思うんですね。そこにカウンター的な(笑)昔、二本立て映画があって、特に気にしてなかった二本目の方が良かったってこと、ありましたよね。そんなことをご提案しています」(裕樹さん)

大雪山連峰

そのためには、いつも良質な映画を届けることが重要だ。「LE CINEMA QUATRE」では、同じ監督、同じテーマで2本ずつ、計4本の作品を上映している。例えばアニエス・ヴァルダ監督、「戦争」というテーマを提示することで、1作に関心を持つと、もう1作も観ていく観客が多いという。作品の魅力を存分に伝えるため、1カ月間上映し続けることを大切にしている。

「一般的なミニシアターの上映って、興行成績によって2週目が決まるので、短いと2週間、長くても3週間くらい。1週目で興行成績が振るわないと翌週は朝の回だけみたいなこともあります。僕はそれが嫌で、『1カ月絶対やりきる。同じ回数やる』ってことを決めています。美術館の展示のノリですね。それがすごく良くて。ここは小さな地域コミュニティなのもあって、最初に見た方が広めてくれて、最後の方に伸びていくんですね。1カ月継続することで、同じ作品を2回見てくれる方もいますし。初めは一人で来て、2回目に友達を連れてきてくれるパターンもあるので」(裕樹さん)

「東京だと、人から『良かったよ』って聞いて『行こう』と思ったら終わってることもありますよね。そういうのをなくしたいなって。それに1カ月同じ作品を上映してると、こちらも愛情が湧いてきて」(富士子さん)

「説明にも愛情が入っていきます(笑)映画って観るたびに発見があるので」(裕樹さん)

窓から動物が顔を出すことも

「ただ続けていくことが望み」居心地の良い文化拠点として、これからも

今後の展望について聞くと、二人は「ただ続けられること、それだけが望みです」と口を揃えた。「満足していただいて、気持ち良く帰ってもらえたらそれだけで十分」だと。

「最近、近所でお一人住まいの方がたまにいらっしゃいます。今日誰ともしゃべらなかったというのが、ここで解消されたらいいな、という思いがあります」(富士子さん)

「2日に1回来てくださるおじいちゃんもいて。同じ作品を5、6回観られる方も。そういう方々にとって、ちょっとした居心地の良い場所になればいいなと思ってます」(裕樹さん)

2026年で東川町に移住して7年目を迎えた。「LE CINEMA QUATRE」の「QUATRE」はフランス語で「4」。4本の映画、住所番号、そして四季の意味を込めている。「四季がはっきりしているところ」が東川町の魅力の一つと語り、この地で「これからも暮らしていきたい」と話す二人は、日々の喜びを噛み締めているように見えた。

自らの価値観において芸術が大きな割合を占める人は、「文化拠点をつくりたい」「地域に場を開きたい」という思いを抱く人も多いだろう。その志を全うする上で、二人の生き方はきっと背中を押してくれるはずだ。北海道を旅する際は、大自然と文化が息づく東川町を訪ねてみてはいかがだろう。

店舗情報

Le Cinéma Quatre(ル・シネマ・キャトル)
住所:北海道上川郡東川町東4号北2番
営業時間:13:00〜18:00
公式Webサイト:https://lecinemaquatre.com/
Instagram:https://www.instagram.com/lecinemaquatre/
※営業時間は変更となる場合があります
※お問い合わせ、事前予約は公式Webサイトから

中国茶とおかゆ 奥泉
住所:北海道上川郡東川町東4号北2番
定休日:火曜日、水曜日
営業時間:7時~13時(12時L.O)
TEL:0166-56-0280
Instagram: https://www.instagram.com/okuizumi_s/

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