マリメッコ、スウェーデン絵画——北欧デザインやアートの展覧会が日本で度々開かれ、人々の北欧文化への関心は根強い。植物のモティーフなど親しみやすいデザインで人気が高いスウェーデンを代表する製陶所「グフタスベリ」の日本初の展覧会「スウェーデンのうつわ グスタフスベリのある暮らし」が、静岡市美術館で9月6日(日)まで開催されている。
グスタフスベリは「すべての人に美しさを」「より美しい日用品を」という理念のもと、才能あふれるデザイナーにより芸術的で日常使いができる数々のテーブルウェアを生みだし、暮らしを彩ってきた。グスタフスベリの歩みを通じてスウェーデンの豊かな生活や、社会におけるデザインの役割に迫る本展の見どころをお届けしたい。
※全国6会場(秋田、東京、松本、京都ほか)を巡回予定。
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リサ・ラーソン、ヴィルヘルム・コーゲなど4名のデザイナーにフォーカス。約300点が出展。

本展では、グスタフスベリの発展を支えた4 人のデザイナー、ヴィルヘルム・コーゲ(1889〜1960)、スティグ・リンドベリ(1916〜1982)、リサ・ラーソン(1931〜2024)、カーリン・ビョルクヴィスト(1927〜2018)に着目しながら、ブランドの歴史をたどる。
「北欧工芸界の父」と称され、日本の民藝運動とも関わりの深いヴィルヘルム・コーゲ。グスタフスベリを代表する「べショー(ベルサ)」シリーズを手がけたスティグ・リンドベリ。猫やライオンなどユニークで愛らしい動物のフィギュリンで、日本でも人気の高いリサ・ラーソン。ノーベル賞の晩餐会で用いられる食器をデザインしたカーリン・ビョルクヴィスト。彼らが創出した製品に目を向けることで、グスタフスベリが与えた文化、社会への影響を感じ取ることができるだろう。
かつての工場を再利用したグスタフスベリ陶磁美術館は、2020年にスウェーデン国立美術館により大幅なリニューアルが実施された。本展では、現代は手に入りにくい貴重な製品や、デザイナーたちが自由に制作した工房「G-スタジオ」で生み出された1 点ものの作品を含め、グスタフスベリの魅力を存分に伝える約300点が集結する。
港町から世界的ブランドへ。
コーゲ、リンドベリが築いた北欧デザインの黄金期

© Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
ストックホルムから東へ約20 ㎞程先にある港町グスタフスベリで製陶が始まったのは1825年。2 年後には工場が稼働し、生産体制の礎が築かれていく。初期のグスタフスベリは、硬質磁器の製造技術を有するドイツから職人を呼び寄せ製造していた。次第により安価で提供でき、民間主導で発展を遂げていたイギリスの作陶を参考にし始める。職人を招き、陶土やデザイン、銅板転写や鋳型成形などの技術を吸収し、量産体制を整えていく。
このように創業当初は国外からの影響を強く受けていたグスタフスベリだが、1870 年代頃から独自製造を推進し始める。またその頃、イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動や、世界的なトレンドであったアール・ヌーヴォー様式が北欧に波及し、スウェーデン国内で自国の歴史や文化、民族性を見つめ直すナショナル・ロマンティシズムの機運が高まっていた。こうした潮流も影響し、グスタフスベリはスウェーデンの民族的アイデンティティであるヴァイキング文化のモティーフや、自国に自生する植物などをデザインに取り入れ、世界のトレンドとスウェーデンらしさが融合する製品を生み出していく。1889 年のパリ万博や国内外の展覧会へも出品を果たし、グスタフスベリはブランドと独自性を確立していく。

© Kooperativa Förbundet KF Photo:Nationalmuseum
1917 年、画家・グラフィックデザイナーのヴィルヘルム・コーゲがグスタフスベリに入社する。
第一次世界大戦後のスウェーデンでは、アート、工芸、産業が一体化した上質な工業製品の製造など、大規模なデザイン改革が推進された。その背景には、女性思想家で教育者のエレン・ケイが『すべての人に美しさを(Skönhet för alla)』(1899 年)で唱えた「家庭における美しさは社会全体の発展につながる」という思想や、美術史家グレーゴル・パウルソンの著作『より美しい日用品を(Vackrare vardagsvara)』(1919 年)の影響があった。
そうした動向の中、コーゲはアーティスティック・ディレクターとして一般家庭で使いやすいデザインのテーブルウェアを生み出し、グスタフスベリを国民的ブランドへ導いていく。労働者に向けた「リリエブロー」、オーブン調理後そのまま配膳できる「ピューロ」、食器の用途を広げ、自由な使い方とスタッキング(重ねること)で収納スペースの縮小が可能な「プラクティカ」シリーズなど、機能性を備えつつ工芸的な美しさを放つテーブルウェアは、一般家庭の生活レベルを底上げした。
日本の民藝運動とも交流があり、装飾的な趣向から離れ、シンプルで斬新なモンダンデザインを提供したコーゲのデザインを味わいたい。

© Kooperativa Förbundet KF Photo: Nationalmuseum
「大衆に上質な製品を届ける」というコーゲの思想を受け継ぎ、色彩豊かで遊び心あふれるテーブルウェアを生み出したのが、1937 年に入社したスティグ・リンドベリだ。
1942 年、コーゲがグスタフスベリ内に設置した工房「G-スタジオ」では、製造ラインのように生産性や効率が求められず、アーティストたちは自由に制作することができた。1949年、リンドベリはコーゲの跡を継いでアーティスティック・ディレクター(1949-1957、1972-1980)となり、G- スタジオを発展させていく。イラストレーターとしても活躍したリンドベリの絵皿や花器は、熟練の絵付師により量産され、一般家庭が入手しやすいアート作品として広まった。本スタジオは、のちにリサ・ラーソンやカーリン・ビョルクヴィストなど名だたるデザイナーを輩出した。
リンドベリがアーティスティック・ディレクターとして活躍した1940〜1960年代の「ミッドセンチュリー」と呼ばれる時期は、北欧デザインの黄金期にあたる。1955 年にはスウェーデンで住空間全体をテーマとしたヘルシンボリ博覧会が開催され、スウェーデンの建築や家具、日用品などの北欧デザインが世界的な注目を集めた。そこで発表されたオーブンで使える磁器「テルマ」や、必要な客数を購入できる「スピーサ・リッブ」は、テーブルマナーにとらわれない新しい生活様式を生み出した。
規格化したプレートやカップなどの素地を活用して生産効率を高めつつ多彩なデザインパターンを施すなど、自由な創造性と大量生産の両輪を機能させたグスタフスベリ黄金期の数々のテーブルウェアは必見だ。本展では、リンドベリが手がけたグスタフスベリの代名詞、葉っぱ模様の「べショー」も数多く出展される。

© Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
ラーソンの愛らしいフィギュリン。ビョルクヴィストの日常に息づく美しさ

© Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
1954 年、リサ・ラーソンはリンドベリに招かれ、「G-スタジオ」の実習生としてグスタフスベリへ入社した。産業デザインに関心が薄く、作家志望のラーソンを尊重し、アトリエや専属のろくろ師が手配されるなど、制作に専念する環境が整えられた。
機能的でシンプルさが重んじられたモダニズム全盛期に、ラーソンは北欧デザインに温かみ、ユーモアという新しい風を届けた。リンドベリにすすめられて制作した動物フィギュリン(磁器の立体造形物)は、鋳型で作られた素地に手作業で彩色が施されたものだ。フィギュリンはグスタフスベリで以前から製作されていたが、効率的に製造されながらも個性的な表情を見せる動物たちは大ヒットした。
本展では日本でも人気の高い動物のフィギュリンのほか、粘土や釉薬の質感を活かした素朴な花器、内面世界を映し出した作家性の強い彫像作品も見ることができる。

© Kooperativa Förbundet KF Photo: Viktor Fordell / Nationalmuseum
1950 年、グスタフスベリに入社したカーリン・ビョルクヴィストは、手仕事の風合いを宿しながら人々の日常に寄り沿う製品を数多く発表した。1956 年の初個展では、手びねりで生まれる素朴な風合い、深みのある釉薬が高い評価を受け、のちに「ヴァールダーグ(日常)」シリーズとして量産販売された。手仕事と機械生産の両軸を維持し、かつ低価格を実現させた本シリーズは、その名のとおり人々の日常に寄り沿うテーブルウェアとして幅広い支持を得た。さらに1970年にデザインした食洗機対応、重ねて収納できるコーヒーカップは、レストランや公共施設などで、現在も日常的に使用されている。
ビョルクヴィストは1981年から1986年までアーティスティック・ディレクターを務めた。作家よりも工業デザイナーの姿勢を貫いた彼女の製品は、匿名性が高いデザインが多い。一方で、1991 年にノーベル賞の晩餐会のための豪華なディナーセット「ノーベル・サービス」も手がけており、彼女の代表作となっている。
芸術と産業の共存。暮らしを彩るデザインを追求したグスタフスベリ
質の高いテーブルウェアをあらゆる人に届けるため、芸術性と生産性の両方を追求してきたグスタフスベリの草創期から近代化の幕開け、モダンデザインの誕生、ブランドの確立から現代までを通観できる本展。スウェーデン国内外で長く親しまれてきたグスタフスベリの歩みは、社会や暮らしにおけるデザインの可能性について、多くの気づきをもたらしてくれるだろう。
会期中は、スウェーデン社会やデザインに関する講演会、ギャラリートークなど、グスタフスベリ、スウェーデンについて理解を深められるイベントが予定されている。北欧の暮らしを体感しに、静岡市美術館へ足を運んではいかがだろう。

展覧会情報
| 会期:2026年6月27日(土)〜9月6日(日) 場所:静岡市美術館 休館日:毎週月曜日 ※ただし7月20日(月・祝)、8月10日(月)は開館、7月21日(火)は休館 開館時間:10:00〜19:00(展示室入場は閉館30分前まで) Webサイト: https://shizubi.jp/exhibition/20260627_gustavsberg/260627_01.php ※全国6 会場(秋田、東京、松本、京都ほか)を巡回予定。 |
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