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(楡 美砂)



ミュージシャン、作曲家、プロデューサー、ヴィジュアル・アーティスト、環境問題に取り組むアクティビスト。多彩な分野で才能を発揮し、活動を続けてきたブライアン・イーノ。当初から実験的な手法を好み、常にスタイルをアップデートしながら進化を遂げてきた。「アンビエント・ミュージックの創始者」として、聞かせる音楽でなく、環境に溶け込む音楽の礎を築いたことで広く知られる。イーノは音を、人が身を置く環境として、人が見つめる風景として描いた。テクノロジーへの関心も強く、近年はジェネラティブ(生成)なアプローチの作品を多く手がけている。2022年に音と映像が変化しながらシンクロし合うジェネラティブ・アートの展覧会「BRIAN ENO AMBIENT KYOTO」を京都で開催。2025年にはドキュメンタリー作品「ENO」が発表された。見るたびに新しく映像が生成され、何度見ても異なる内容を鑑賞できる「ENO」は世界的な注目を集め、日本でも公開された。

ブライアン・イーノ ジェネラティブ・ドキュメンタリー映画『Eno』|予告編

イーノにとって最新テクノロジーは効率化のパートナーではなく、創造的実験的、あるいは新しい表現道具を手にするように向き合うことができるのだろう。その根底には、芸術の発露、実験脳可能性、突発的に生まれゆくものへの探究があると見られる。
創造が始まる瞬間は、実に曖昧で、風のようにつかみがたい、インスピレーションとしてやってくる。イーノはその即興的な感覚を、ジェネラティブなアートを通じて、観客に体感を促すかのようである。

風景が浮かぶ音楽。初期の傑作「By This River」

今回は1977年にリリースされた「Before And After Science」から、代表作「By This River」を取り上げたい。イーノが本格的にアンビエント・ミュージックに取り掛かった「Ambient 1: Music for Airports」の前年に発表された本作「Before And After Science」にはアンビエントの訪れを予感させるムードが漂う。前半は、バンドサウンド中心の軽快なビートミュージックが続くが、「Julie With…」から一気に静かで内省的な世界に連れていく。そして「By This River」ではすっかり静まり返り、遠くからピアノの音が響き始める。内なるさざみに耳をすますように、リスナーは聴き入るほかなくなる。タイトルにある「river」からも想起されるが、湿度があり、全編に水の気配が漂う曲だ。

歌詞が伝える景色はシンプルだ。

川辺に立つ二人。何かを待っているが、何のためにここに来たのかわからない。
二人は言葉を交わす。けれどわからない。
どこから来たのか、どの時間からやってきたのか。

二人の関係ははっきりしない。ただし、ここにいる二人は、どこまでも近く、遠い二人なのだろう。
そしておそらく、二人は別れていく。そして同時に、どこかで出会う。

音も言葉も扇情的とは言えないのに、繰り返される音の波は聴き手の心の機微に正確に触れてくる。音楽的な情動を抑制しながら、絵画的な静けさと融合し、緊張を保ちつつ永続的な共鳴を起こし続けている。
イーノは音楽家の中でも聴覚と視覚のつながりを重視してきたアーティストだ。イーノの音に接するたび、幾度も胸の深奥と響き合うような風景がもたらされるのだろう。

[Automatisme]

さざめく水流
白い水面 灰色を照らす光
目は覚めているのか
歩く 水が流れる方へ
指が 触れたり触れなかったり
まなざしは 触れない
肩も 近いのに遠い
歩くスピードは同じ
声が交わされる

鳥が旋回している
空を見上げるほかない
ふりかかるのは

あなたは私を見たのか
私はそらした
青い 草の葉が揺れている
背丈は少し近い

私たちが 遠ざかるのが見える
水面の揺れ
青い草を歩く

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